- 期間満了に際し更新拒絶(雇い止め)がなされる場合でも、一定の要件を充たす場合には、
解雇に関する法理(労契法第16条解雇権濫用法理等)が類推適用され、雇い止めが無となることがあります。 - 解雇権法理の類推適用の有無は、雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、 契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる言動・制度の有無、労働者の継続雇用に 対する期待の相当性等の諸要素によって判断されます。
- 非常勤公務員の雇い止めには、労契法第16条は類推適用されません。・期間途中の解雇は、期間の定めのない契約における解雇に比べ、解雇の有効性が厳格判断されます。(労契法第17条①)
有期契約の期間制限と更新
ⅰ)有期契約の上限規制(原則3年)
最初の契約締結時のみならず、契約更新の場合も、更新後の契約期間は上限規制に適合していなければなりません。また、上限規制に違反した契約は、労基法第13条、14条により、制限期間の上限の期間を定めたものとされ、その上限期間を超えて労働関係が継続 された場合には、黙示の更新により期間の定めのない契約として継続すると解されます。したがって、上限期間を経過したあとの雇い止めは、法的に解雇となり、労契法第16条(解雇権濫用)の規制を受けることになります。
ジオス事件(大阪地裁決定平成8年12月16日労判719号)
ⅱ)上限規制3年に対する例外
- 一定の事業(プロジェクト)のための契約 → 事業の完成に必要な期間
- 告示が定める高度専門的知識等を有する労働者との契約 → 5年
- 満60歳以上の労働者との契約 → 5年
ⅲ)下限(短期)についての配慮義務
有期契約の下限についての強行法規はなありません。1日単位の日々雇用とすることも可能です。
但し、労契法第17条②は、「使用者は、期間の定めある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新しることのないよう配慮しなければならい」として、使用者に対し、無用な短期雇用の濫用を防止するよう配慮を求めています。
ⅳ)契約締結時における更新の有無・基準の明示
- 労働契約締結時の際に労働契約の期間、賃金、労働時間などの労働条件について書面による明示を義務づけています。(労基法第15条①)
- 期間の定めある労働契約の内容について、できる限り書面により確認するもとする。 (労契法第4条②)
- 厚生労働大臣告示「有期労働契約の締結、更新および雇止めに関する基準」
・更新有無の判断の基準を変更する場合には労働者に対し速やかに明示しなければならない。(第1条③)
・契約更新する旨又は更新する場合がある旨明示している有期労働契約について、1年を超えて継続雇用している場合、あるいは3回以上更新されていた場合には、期間満了の30日前までに予告をしなければならない。(第2条)
・労働者からの求めがあった場合、更新しない理由について証明書を発行しなければならない。(第3条)
ⅴ)黙示の更新
契約期間満了後、契約更新がないまま引き続き労働関係が継続し、使用者からも異議もなかった場合には、民法第629条①にもとづき、黙示の更新により期間の定めのない契約(賃金等労働条件は前の契約と同)として労働関係が存続します。
よって、黙示の更新後の雇い止めは、法的には解雇であり労契法第16条の規制を受けます。
日欧産業協力センター(東京地裁判決平成15年10月31日労判86号)
雇い止めに対する制限
ⅰ)反復更新後の雇い止めに対する制限
特に仕事が一時的とか季節的というわけではなく更新を繰り返してきたような場合には、解雇に関する法理が類推適用されることがあります。類推適用が認められる場合、通常の解雇の場合と同様、解雇権濫用法理(労契法第16条)などに照らして、雇い止めの有効性が判断されます。
例えば、人員削減を理由とする雇い止めであれば、整理解雇の4要素法理の観点から、雇い止めの有効性が判断されます。
整理解雇の4要素法理
ⅱ)解雇法理が類推適用される場合
- イ 有期契約が「実質において期間の定めのない契約と異ならない状態で存在する」場合
- ロ 有期契約の「更新に対する合理性な期待がある」場合
類推適用の有無が総合判断される6つの事情
- 雇用の臨時性・常用性(仕事の内容が臨時的・補助的か、基幹的か)
- 更新の回数
- 雇用の通算期間
- 契約期間管理の状況
更新手続が形式的であったり、契約書を作らないことあったり、事後的に契約書を作成する場合などは、類推適用あり判断要素となります。
- 雇用継続の期待を持たせる言動や制度の有無
採用面接で「希望うる限り働き続けられる」などの説明があったり、契約書に定年の記載があることなどは、類推適用ありの判断要素となります。
- 労働者の継続雇用に対する期待の相当性等
他の有期雇用者が長年更新を繰り返して雇用されているというような事情があると、類推適用ありの判断要素となります。
近畿コカ・コーラボトリング事件(大阪地裁判決平成17年1月13日労判893号)
ⅲ)最初の期間満了の際の雇い止め
最初の更新時、他の同様な契約で全員が更新されてきたなどの事情があり、期間満了後の雇用継続を合理的に期待させるような契約である場合には、信義則上、更新拒絶には それが相当と認められるような特段の事情が必要となります。
ⅳ)定められた契約期間の実態が試用期間である場合
労働者を採用する際に契約に期間を定めとしても、その趣旨・目的が労働者の適正を 評価・判断するためのものであるときは、期間の定めは契約の存続期間ではなく試用 期間であるとして、期間満了を理由とする雇い止めは無効となりえます。
【裁判事例】校常勤講師の事案
・愛德姉妹会(本採用拒否)事件(大阪地裁判決平成15年4月25日労判850号)
社会福祉法人の職員の事案
有期雇用の契約期間途中の解雇
労働契約を解約する使用者の意思表示は解雇であり、解雇権濫用法理等の解雇制限法理が適用されます。さらに、労契法第17条①では、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむ得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と規定しており、これに関する通達は、「やむ得ない事由」とは、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」と認められる場合よりも狭いと解されています。有期契約の契約期間途中の解雇の有効性は、期間の定めのない労働契約の解雇に比べ、より厳しく判断されます。
【裁判事例】